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2012年05月17日
月からの来訪者
テーマ:日記
六金式神の召還後、俺は白い光の中にいた。
 
召喚と同時に俺は月逢の作り出した世界に引き込まれたのだ。
 
その光の中に1人の綺麗な女性がいた。Motivator:http://www.superkanpo.net/pro/kp241.html
 
「……あなたが月逢?」
 
……月逢、六金式神と呼ばれる伝説の6つの式神の1つ。
 
その能力は『消滅』、あらゆるモノを消滅させる力を持つ最強レベルの式神だ。
 
はっきり言って俺程度の陰陽師が召喚できるなんて信じられないくらいだ。
 
「久しぶり……ずいぶんと大きくなったわね、洸」
 
「俺を知っているのか?」
 
ふいに俺は月逢に抱きしめられた。
 
ぎゅうっと抱きしめられるそれは普通の女の人と変わらない。
 
綺麗な長い黒髪が俺の頬をなでた。
 
「……大きくなったって?」
 
「そっか。洸は覚えていないんだ。そうだよね、あんな子供が私を召喚したんだもの。反動もすごかっただろうし……覚えてるわけがない」
 
あの時は大変だったねって笑う月逢。
 
なんだこれは……?
 
「どうしたの。意外そうな顔してるけど?」
 
「いや、月逢が女性型の式神だってのは聞いてたけど、予想してたのとはちょっと違うって言うか。もっと怖い人みたいな。私に命令するなって目上の人っぽい感じのイメージがあったから」
 
わらわは……とかいいそうな古風系をイメージしてただけにちょっとびっくりした。
 
これじゃ舞とか風華達とほとんど変わらない。
 
しいていうなら、姉さんの性格を穏やかにした感じだし。
 
「う〜ん、過去にはそういう六金式神もいたと思うわよ?」
 
「そういう式神もいた?どういう意味なんだ?」
 
「六金式神っていうのは使う人のイメージが具象化したものだから。簡単にいえば、洸以外の人が召喚したら別の人格の“私”が召喚されるって事なの。外見だって変わるもの。常に人型じゃない。子供の時の洸は私を誰かに照らし合わせたんじゃないのかな?」
 
そんな話は聞いたことないが、本人が言うならそういう事なのだろう。
 
しかし、俺は誰をイメージしたんだろう。
 
いや、月逢の口調や性格に1人だけ心当たりはある。
 
「……まさか……姉さんか?。今じゃキツイ性格だけど、5年くらい前は月逢みたいな気さくな感じだったし。俺も何気にあの人の事を憧れてたからな」
 
「姉さん……、そうなのかもしれないね。そっか、私は洸のお姉ちゃんなんだ」
 
嬉しそうに笑う彼女はとても魅力的に思えるくらいに普通の女の人だった。
 
確かにそう思えば、月逢は昔の姉さんの性格と容姿をしている。
 
しかし……だからと言って、相手は最強のクラスの式神だ。
 
つい馴れ馴れしくなってしまったが、力を貸してもらわないと困る。
 
俺は月逢に考えていた話をする事にした。SPANISCHE FLIEGE D9:http://www.superkanpo.net/pro/kp199.html
 
「月逢。俺は今、救いたい人がいるんだ。その人を救うために貴方の力を借りたい。そのために召喚したんだ」
 
「……私の力を使うって事はどういう事か分かって言ってるんだよね」
 
さっきまでの和やかな雰囲気とは違い真剣な眼差しで俺を見つめる月逢。
 
「ああ。その絶大な力を使ったら5年前のように反動がすごいんだろ」
 
「うん。以前よりは成長してるし、体の方は大丈夫だとは思うけどそれでも人間の限界を超す力だからね。……覚悟はある?」
 
「俺にはもう月逢に頼るしか方法がない。綾を見殺しにしないための最後の手段なんだ。たった1つでも方法があるなら、俺は諦めたくないんだ。絶対に……」
 
月逢はそんな俺の頭を撫でてきた。
 
「げ、月逢?」
 
「えらいね、洸……。そっか。こんなに成長してるんだね。わかったわ、洸。私の力を貴方に与えてあげる。その代わり、私を召喚するのに2つの事を守って欲しいの」
 
「2つ?何なんだ?」
 
月逢を召喚するために必要な事。
 
召喚の代償、命を削るとかそういう類の話だな。
 
「……1つは霊力。私を召喚するのには洸の多くの霊力が必要なの。それがなければどんなに私が召喚されたくても召喚できないから」
 
「わかってるよ。逆を言えば霊力さえあれば召喚できるんだろ。後1つは?」
 
「憎しみで私を召喚しないで欲しいの。闇に魅入られた人に召喚されると、六金式神の力は闇の力になるから。本来、六金式神は封印する側の切り札だからね。これは個人的な意味も含めてのお願い。これさえ守ってくれるなら私はいつでも力を貸すわ」
 
月逢が俺と手を重ねてくる。
 
人と同じような暖かな温もりを持つ女性……傍にいると安心感さえ覚える。
 
「大丈夫、洸なら綾と言う子を助けてあげられる。そのための力を持っているもの」
 
俺は目を閉じて月逢の力を受け入れた。
 
身体全体に彼女の膨大な霊力が血のように行き渡っていく。
 
そして、俺を中心に光が放たれていった。
 
 
 
【SIDE:皆城小夜美】

私達が到着した頃、寺全体を巨大な霊力が包み込んでいた。
 
洸が六金式神を召喚するのに間に合わなかったの?
 
綾さんと零の前にまばゆいばかりの閃光が煌いていた。
 
「遅かったか!ちっ、仕方がない、近づくぞ、小夜美。……小夜美?」
 
「……洸、やめてよ。こんな事になるなら陰陽師になんてさせなきゃよかった」
 
大切なものをこれ以上は失いたくない。
 
呆然としてしまった私の手を引いて、正臣が走り出す。
 
「洸……お願いだから無事でいて」
 
「……小夜美、戦闘になっていればあらゆる可能性を考えておけ」
 
「分かってるわよ、私だって陰陽師の四天王よ。私情を抑えこむことぐらいできるわ」
 
そう、正臣も綾さんを救いたい気持ちがある。
 
今はただ、彼を信じるしかない。
 
私達が洸の近くまで来ると、ものすごい霊圧で身体が震えるくらいだった。
 
天を切り裂く光の柱が地上を貫く。
 
その光の中から女性型の式神が現れる。SPANISCHE FLIEGE D6:http://www.superkanpo.net/pro/kp198.html
 
伝説の式神、月逢……満月を背にして彼女は綾さんの式神に向き合う。
 
「あなたに月は似合わないわよ、零。月は私、月逢にしか似合わない」
 
「……まさか、六金式神!?皆城洸……、やはり貴方はここで殺すべき相手ね」
 
綾さんがそう言って彼に向かって攻撃呪術を放った。
 
「無駄よ。今の私と洸に貴方の力は通じない」
 
月逢が彼の前に立ち、その力を無効化する。
 
相手は九怨の幹部クラスの実力者、それを意図も簡単に止めるなんて。
 
私も六金式神、古(いにしえ)の使い手、六金式神の力は十分知っていた。
 
今まで黙り込んでいた洸が口を開いた。
 
「……殺。もう1度言う。俺はお前を倒して綾を救い出す。月逢はそのための力だ」
 
「何を言ってるの?この身体は既に私のモノ。綾はもう私の中にはいない。心の奥底に封じ込めてしまったもの。取り返すのは不可能よ」
 
「やってみなくちゃ分からないだろ……。俺は最後まで諦めない!」
 
洸は真っ直ぐな瞳でそう言葉を紡いだ。
 
陰陽師として、彼なりに成長していた事を私は気づかされた。
 
……彼が彼女を救うことを諦めてはいなかった事に心の底から安堵する。
 
いつまでも洸は守ってもらうばかりの子供じゃない……守る立場になっていたんだ。
 
「行くぞ、月逢。俺達の力を見せてやろうぜ」
 
月に彩られし中で月逢と洸の力が解放された……。SPANISCHE FLIEGE D5:http://www.superkanpo.net/pro/kp146.html
2012年05月15日
希望の形はひとつじゃない
テーマ:日記
「……俺はずっと前から気になってる女がいるんだ」
 
最初、その台詞を聞いた時、私はかなりのショックを受けた。
 
「え?えっと、え?」狼1号:http://www.superkanpo.net/pro/kp71.html
 
彼が自分の想いを語るのは初めてで……。
 
それがずっと前からなんて、私はハッとさせられる。
 
きっと、その子は私じゃないんだ。
 
「ずっとそれが好意だと気付いていながら気付かないふりをしていた。俺はその子が好きなんだと思う」
 
覚悟はしていた、答えを望むという事はダメの場合があるんだって。
 
恋愛は難しいもん。
 
私にだって……受けとめることはできる。
 
でも、やはりショックなのはショックなので、瞳に涙を浮かべてしまう。
 
「それは、他に好きな子がいるってことよね。そっか……そうなんだ」
 
「いや、待て。早まるな、俺の言い方がまずかった……」
 
「いいのよ、私は聞きたかったの。それがどんな答えでも仕方ないもの」
 
有翔は私に気があると思いたかった。
 
優しくしてくれて、助けてくれたことに私はそれが好意だと勘違いしていたの。
 
「ありがとう、有翔。私の傍にいてくれて。でも、いいのよ。好きな人が別にいても、私が貴方を好きなことに変わりはないもの。これからも妹として……」
 
「だから、待てって言ってるだろ。あっ、おいっ」
 
私は一緒にいるのが辛くて、その場から逃げようとする。
 
「心奏、俺が好きなのは……聞けって言ってるだろ」
 
だけど、それは私の勘違いだったの。
 
「――んむぅっ!?」
 
私の唇を有翔はいきなり奪う、その衝撃に心臓の鼓動は高まるばかり。
 
ファーストキス、残り1cmの距離が縮まった瞬間。
 
「俺が好きなのは……心奏だよ。人の話を聞けよ、告白してるんだからさ」
 
「だ、だって、有翔が私を好き?昔から気になっていた?」
 
「お前と同じだよ。あのパーティーの日、俺達は運命は始まっていたんだ」
 
私も有翔と巡り合えたことは運命だと信じていたもの。
 
それを彼から言われるなんてすごく素敵なことだと思う。
 
有翔を好きになってホントによかった、私は彼の腕の中に抱かれながら幸せを感じた。
 
 
 
別荘の屋敷に戻り、服を着替えた私は昼食を終えてのんびりとしていた。
 
有翔と恋人になれた、その実感が時間の経過とともに私に芽生えてくる。
 
「……恋人、こ・い・び・と(はぁと)」
 
「おい、お嬢様。何を惚けた顔をしている。こんな場所にひきこもってないで、テニスでもしにいかないか?隣にコートがあるんだろ?せっかくいい天気なんだし、外に出よう」
 
「もう少し、幸せにひたらせてくれてもいいじゃない。だって、恋人よ。私がこの3年間で1番望んでいたものなの」
 
この喜びは言葉で言い表せるものじゃない。
 
ソファーに寝転ぶ私を有翔は見下ろして言う。
 
「一応、確認なんだが俺達は恋人でいいのか?」
 
「何よ、嫌なの?恋人じゃ不満なわけ?」勃動力三体牛鞭:http://www.superkanpo.net/pro/kp72.html
 
「俺が不満だといつ言った。違う、お前のことだ。婚約者というのを別に決められたらこちらも困るわけだ。その話、忘れたわけじゃあるまい?」
 
幸せの余韻から一気に現実に引き戻された。
 
そうだった、私達にはまだ鏡野家という最後の壁が待っているんだ。
 
私の恋は私で選ぶの!と考えを改めて、有翔に恋をしたのはいいけども、現実的に私は自分で好きな人を選べない状況に変わりはなくて。
 
「ここまで来て、引き離されるってオチは勘弁だぞ」
 
「だ、大丈夫よ。有翔が私を好きだっていうなら何でもするもの」
 
「それは本当か?地位も名誉もうちは家柄的に劣るからな。主導権はない。つまり、気持ちでいくら繋がっていても、どうにもできないこともあるわけだ」
 
特に有翔は羽瀬家を出ようとしている身。
 
私の婚約に反対する鏡野家の人間がいてもおかしくはない。
 
「不安が残っている。それを乗り越えられなきゃ俺達は本当の意味で恋人にはなれない。まぁ、もしもの時は……」
 
「私と駆け落ちで家を出ていくのね?」
 
「いや、それは無理だろ。今時、そんな事をしても、どこまで逃げても鏡野家に未来をつぶされるのは目に見えている。非現実的な事をするつもりはない」
 
……女の子の気持ち的な憧れを現実とかって言葉で片付けないでよねぇ。
 
そりゃ、私は家を出ても大して役にも立てないし、意味はないけどさ。
 
「もしもの時は、どうしてくれるの?諦めちゃう?」
 
「諦めることはないな。俺が言いたかったのは、俺がお前にふさわしい人間になってやると言いたかった。どれだけ時間をかけても、他人に認められる人間になってやる。好きな女を手にするためにな。だから、心奏には待っていてほしい」
 
それだけで十分だった。
 
私は嬉しさで涙を浮かべてしまう。
 
彼が私を愛してくれている、そのことが何よりも嬉しくて。
 
「……と言ったはいいが、まだ先の話だ。お前の婚約話は2年後の18歳になるまでないという話だろ。それまでに何とか祥吾さんや更紗さんに認められるように努力する。不安ばかりじゃなくていい方向にも考えようぜ」
 
有翔の考え方って時々、年上だなって感じるの。
 
私は子供だ、目の前の事しか見えていない。
 
「心配するな。俺は常に物事が最善に向かう行動をとる男だぞ」
 
彼は違う、ちゃんと将来を見据えて物事を考えて行動している。
 
「そうね。きっと大丈夫よ。きららお姉様も協力してくれるはずだから」
 
「きららさんか。あの人ってすごいよなぁ。鏡野家の人間だってことをこの前の事件で改めて考えさせられた。行動力もある素晴らしい人だな」
 
……姉を褒められるのは嬉しいけど、私に何もないって言われてるみたいで悔しい。
 
私が頬を膨らませて拗ねると彼は苦笑いをする。
 
「なんて顔をしているんだよ。お前も憧れているんだろ、お姉さんのようになりたいって……。心奏も頑張れよ」
 
「むぅっ。お姉様は特別だもの。私のコンプレックスになるくらいにね」
 
「いい目標だと思えばいい。上には上がいる、人は常に自分を高めていくことを考えて生きていく。目標があるというのはいいことだろ。やりがいがある」
 
「はいはい。頑張りますよ。お姉ちゃんみたいになってみせるわ」
 
有翔は内心、「無理そうだけどな」と思っているに違いない。
 
絶対に将来、その考えを否定させてあげるんだから。
 
私だってやればできるという事を見せてやる。
 
「……ん、電話だ。お母様から?」
 
私は身体を起こして、携帯電話に出るとお母様からとんでもないことを聞かされる。
 
「どうしたの、お母様。何かあったの?」
 
『何かあったのはそちらでしょう、心奏。ずるいじゃない、ふたりが交際しているなんて私は聞いてないわ。もうっ、隠さなくてもいいのに』
 
と、何だか浮かれた様子で語る彼女。
 
私はポカンっとしつつ、何事なのか尋ねてみる。
 
「何の話をしているの?」
 
『有翔クンのことよ。さっき、祥吾から連絡があったの。心奏との交際を認めて欲しいって有翔クンから連絡を受けたんだって。何よ、ふたりとも。いつのまにかくっついちゃって。今、二人でラブラブなのねぇ?』男宝:http://www.superkanpo.net/pro/kp103.html
 
「なっ、何で、お父様に連絡が?えっ、え?」
 
どういうこと、何で鏡野家に情報が……?
 
私は状況把握できずに目の前の有翔を見返すと彼は微笑して言うんだ。
 
「言っただろう。お前を手に入れるために常に最善の行動はとるつもりだ、と」
 
「だからっていきなりお父様に話を通すなんて……」
 
あれでしょ、これっていわゆる「娘さんを僕にください」的な勇気のいる行動じゃない。
 
交際という意味は婚約という意味に繋がってくる。
 
それを躊躇なくやりとおす有翔って勇気があるっていうか、度胸が据わってるというか。
 
『祥吾も褒めていたわよ。そういう事を普通にできる有翔クンの判断力と決断力。私達はちゃんと分かっている。婚約者としての話ももうすぐ祥吾が海外出張から帰ってくるからちゃんと話しあいましょう』
 
「あ、あのね、お母様。私は有翔が好きよ、大好きなの。だから……」
 
『分かっている。結婚するなら好きな人とがいいのは私も経験しているもの。心奏、私は何があっても貴方の味方よ。心配しないでいいの。いざとなったら誰にも文句は言わせないから』
 
私は皆に愛されている、親や姉、家族にちゃんと愛されているんだ。
 
『心奏、想いが実ってよかったわ。幸せになりなさい』
 
優しいお母様の言葉、私は「ありがとう」と感謝の言葉を告げて電話を切る。
 
私は策士の有翔に文句を言う。
 
「な、何よ、自分で勝手に行動をしているじゃない」
 
「当然だろう。俺は心奏が好きだからな。好きな女を手に入れるためには全力を尽くす、それができないなら初めから交際をしない。俺の覚悟ってやつだな」
 
「だとしても、お父様たちに話すのはいきなりっていうか」
 
しかも、ふたりとも前向きな意見な様子。
 
心配や不安が一気に消えていくのを私は感じていた。
 
「俺だって正直、緊張はしていたぞ。けどな、逃げても何もはじまらない。壁があるなら叩き壊す勢いで向き合わないといけない。俺はそうして生きていくつもりだ。これからもずっと、そうしていく」
 
彼が羽瀬家を出た3年間で、自分なりに世界を見て感じた結果なんだろうか。
 
その時の有翔の横顔はかなりカッコよく見えたの。
 
「……有翔は強い。私にはできないわ」
 
「心奏も弱い女の子じゃないだろ?やればできる子だ」
 
「うん、私も努力するよ。貴方にふさわしい女になるために」
 
有翔が傍にいてくれる、その安心は私の行動を支えてくれる。
 
何て頼りになる彼氏なんだろう。
 
「というわけで、これから出かけるぞ。せっかく、別荘地まで来ているんだ。楽しもうぜ、ふたりだけの時間ってやつをさ」
 
有翔が私に手をさしのばしてくれるので、私はその手を握り返した。
 
大好きな有翔の優しい温もりがする。VVK:http://www.superkanpo.net/pro/kp7.html
 
私は本当に幸せだよ……。
2012年05月11日
千の光、万の光 
テーマ:日記
飛び出そうとする烔馬(とうま)と亥角(いの)の前で両手を広げた穂波(ほなみ)は、真剣な眼差しを二人に向けている。
「穂波ちゃん………?」止められるなど思ってもみなかった烔馬は、眉を跳ね上げて彼女をまじまじと見つめた。
 篝火(かがりび)の灯りを背に受け、朱色の千早に織り込まれた金の模様に集まる僅(わず)かな光が、彼女の顔に反射して表情を照らす。得意の人懐っこい甘えた微笑みは消え、有無を言わせない態度と凛(りん)とした声。葉月(はづき)が危ないかもしれないというのに、やけに冷静だ。VIVID XXL:http://www.superkanpo.net/pro/kp472.html
「どけよ!」と亥角が怒鳴る。「放っといたら火事になるぞ!」
 烔馬も同意見だった。葉月の前で膝を折り、灯籠を掲(かか)げる女性から立ち昇るあの煙。灯籠の中に飛んで来た葉っぱでも入って燻(くすぶ)っているだけならまだいいが……参列者と見せかけてあの女性が放火を企てているのだとしたら?佐保(さお)山の火事を思い出していた事もあり、烔馬の頭に悪い想像が否応無しに浮かんだ。あの時のように竜田山も全焼するなどという事態になど、なってはならない。絶対に。
「落ち着いて。あれは小火(ぼや)じゃないから」と穂波は首を振って言った。額の簪(かんざし)が揺れて、ちりちりと音を立てる。
「何でそう言い切れんだよ?!火が出てないなら、あれは何だって言うんだ?!」亥角がすぐに食って掛かる。
 今ばかりは烔馬も彼と同じ気持ちだった。葉月の身に何かあったらと思うと、到底落ち着いてなどいられない。一刻も早く彼女の元へ駆け付けたかった。苛立ちに似たものを覚えながら、穂波の肩越しに葉月が無事かどうか確認しようと前方に目を走らせた。
 すると、平静を保っているのは穂波だけではない事に気が付いた。参列者がパニックを起こし掛ける中、神職者達は何事も無いように儀式を続けている。松明(たいまつ)を手に灯籠に火を灯していた巫女と覡(なぎ)が、何も危険は無いから安心するようにと人々を鎮めて回っている。葉月も目の前の女性と黒煙に静かに向き合ったまま、微動だにしない。
 穂波は穏やかだが一歩も譲らぬ口調で、二人に言った。「あなた達の役目は、悪い人間から竜田姫を守ることでしょ?悪魔から人々を守るのは、竜田姫の役目。今のあなた達は守られる側だよ」
「悪魔ぁ?」と亥角が間の抜けた声を出し、益々(ますます)顔を顰(しか)めて彼女を睨んだ。
「ほら、あれを見て」
 彼女は首だけ回して、葉月の方を振り返った。二人もその視線の先を追った。
 葉月は相変わらず、女性の周りから噴き出す煙を黙視している。その眼差しは真っ直ぐで、怯んでも脅えてもいない。何の感情も読みとれない、深い深い眼差し。煙の中から何かを探り出そうとしているような目だ。
 もくもくと増え続け、大きくなる煙を、烔馬はじっと目を凝らして観察した。確かに、火災の煙にしては動きが妙だ。葉月よりやや高い位置で寄せ集まり、鎌首を擡(もた)げて彼女をじろりと見下ろしているようにも見える。まるで意思を持っているような、一つの生き物かと錯覚してしまいそうになる動きだ。火から生まれる煙よりもどす黒く、得体の知れない何か。本能的に危険だと感じ、烔馬の背筋をぞくりと震えが駆け抜けた。
 その時、葉月が動いた。滑るように滑(なめ)らかな所作で袖を上げて宝剣の刃先を向けると、煙を斬るように真一文字に振った。ぶわっと煙が散ったかと思うと、女性の頭目掛けてしゅるしゅると縮んで行く。彼女の首元に小さく寄せ集まると、何かの形を成し始めた。縄のように何重にも首に巻き付く、長い胴。ちろちろと出し入れする、先が二つに分かれた舌。豆粒程の真っ赤な目は、闇の中でぎらぎらと不気味に光っている。
 烔馬は細めていた目を見開いた。「煙が消えた………!あれは………蛇か?」
「あの蛇が悪魔です」
「どういうことだよ?!」
 驚きを隠せず叫ぶように問う亥角に、穂波は説明する。「女の人から出た煙は邪気なの。それも、ただの邪気じゃなくて、悪魔を構成している強い邪気。あの人の身体の中に住みついている悪魔が、葉月の神力に反応して出てきたの」
 二人は言葉を失った。目を剥(む)いて呆然と立ち尽くし、暫く蛇から目を離せなくなった。
「あれが………悪魔…………?」信じられぬという思いで、亥角が掠(かす)れた声を洩(も)らす。
「ちょっと待って」と烔馬がはっとして言った。「だとしたら、どうして俺にも見えるの?俺に神力はないのに………」
「普通の邪気は見えなくても、悪魔なら力のない者にも見えることがあります。悪魔自身が、自分の姿を人間に見せようと思っている時ならね――あの女の人には見えていないのだろうけど」穂波はやや瞼(まぶた)を伏せ、最後の言葉を低い声で付け加えた。
 亥角が怪訝(けげん)そうに彼女を見た。だいぶ事情が呑み込めてさっきより表情が和らいではいるが、彼女の意味深な一言に首を傾げる。
「何でだよ?オレにも烔馬さんにも見えるし、あそこでギャーギャー騒いでる奴らにだって見えてるんだろ?」と彼は巫女達に宥(なだ)められて落ち着きを取り戻したものの、まだ不安そうにざわざわしている人々の列を指して言った。「なのに、あの女には見えてないってのか?首に巻きついてるのに?」
 たぶんね、と穂波は頷いた。「悪魔は、あの人にだけは姿を見せたくないのよ。寄生していると宿主に気づかれたら、警戒して生気を取られないようにするかもしれないし、神官に頼んで取ってもらおうとするかもしれないでしょ?あの人はまだ、自分が憑(つ)かれてると気づいてないわ。花灯籠会(はなどうろうえ)に来てなかったら、危なかったかもね………。悪魔っていうのはね、人間の肉体と精神両方に働きかけて生きる気力を奪うの。宿主の身体をむしばんで病気を引き起こしたり、人生を悪い方へ悪い方へと変えたり、不幸を招き寄せたりしてね。そうやって十分生気を吸いつくしたら宿主の身体を離れて、次の宿主にする人間を探すの。あのまま放っておけばあの女の人も危ないし、力をつけた悪魔が今度は誰に取り憑くかわからないわ」
 穂波は女性に同情するような一瞥(いちべつ)を投げ、烔馬と亥角の方に向き直った。二人がもう飛び出したりしなさそうだと判断し、行く手を阻もうと広げていた両手を下ろす。引き締まった表情を少しだけ緩めると、優し気に諭(さと)すように二人に言った。「葉月は竜田姫だもの。あんな小さい悪魔なら、きっと封じ込められる。だから、ここで見守っていてあげて」
 烔馬は黙って彼女を見つめた。彼女の言う通り、悪魔が相手では衛士(えじ)の出る幕では無い。これは神官の――葉月の役目であり、自分に出来る事は彼女を見守り、負けぬよう祈る事だけだ。
(葉月……………)
 不安に揺れ動く気持ちを押し殺し、烔馬は眉を顰(ひそ)めて葉月を見つめた。己の無力さ、彼女の力になれない心苦しさで息が詰まりそうになる。だが、耐えるしか無い。身体の横で下ろした両手の指先が微かに震え、それを抑えるようにぐっと握り締めた。不安も一緒に握り潰すように、強く。
 普段ならば人の指図に従わない亥角も、こればかりは成す術(すべ)が無く、困惑気味に事の成り行きを見守っていた。

 小さな赤い二つの点が、此方(こちら)を見ている。
 見た瞬間に心臓が凍り付いてしまいそうな、何処(どこ)までも冷たい眼光。血を連想させる色の瞳に、底知れぬ闇のように黒い縦長の瞳孔。口からちろちろ覗(のぞ)かせる細長い舌や女性の首元にぐるりと巻き付いている胴体は、向こう側の景色が全く透けない程の濃い煙で出来ていて、輪郭(りんかく)は絶えずゆらゆら揺らめいている。頂点3000:http://www.superkanpo.net/pro/CROWN3000.html
 蛇の姿をした悪魔は、鮮やかな不吉さを湛(たた)えた両目を瞬(まばた)きもせずにじっと葉月に注いでいる。彼女にどの程度の力があるのか量っているようでもあり、余計な真似をしたら此方にも考えがあるぞと脅しているようでもある。
 葉月は表情一つ変えずに、その挑発的な視線を受け止めた。鋭い氷柱(つらら)の先を喉(のど)に突き付けられているような緊張が走った。
(一段階悪魔………生まれて間もない悪魔だ)
 灰色の瞳を深い色に染め、彼女は思考を巡らせる。
 この悪魔は、宿主である女性の負の感情が溜まりに溜まって生まれたものだ。あらゆる感情が心の中に渦巻く度に、放出される邪気は増える。邪気が増え過ぎると“悪魔の芽”というものが出る。それが宿主の身体に蔓(つる)を伸ばし、成長して絡(から)み付いて行くとやがて自我を持つようになり、悪魔が生まれるのだ。生まれると、更に五つの段階順に成長して行く。一段階は小型動物の姿を取り、二段階は中型動物、三段階は大型動物、四段階は人型、そして五段階に達すると異形の生き物――怪物の姿を取る。
 この蛇型の悪魔はまだ一段階だが、放っておけばどんどん成長してしまう。悪魔を生み出してしまう人というのは精神が不安定な状態にあり、三段階にまで成長させてしまえば心身共に堪え切れなくなってしまうだろう。最終的に待ち受けるのは、死だ。最後の一滴まで、魂を悪魔にしゃぶり尽くされてしまうのだ。それを阻止するためには、悪魔が生まれる原因となった感情を彼女から消さなければならない。
 葉月は蛇から女性へと視線を移した。黒髪をショートカットにした、二十歳位の若い女性である。捧げ持った灯籠がぼんやりと照らす表情は冴えず、顔色も悪い。前髪から覗く目は虚ろで、一点の光も灯らない。深い深い絶望と孤独、悲しみに支配されている瞳。何処か投げ遣(や)りな目付きで、葉月の足元辺りを力無く見つめている。
(魂を吸われ気味だけど、まだ間に合う。悪魔さえ取れれば、元気になるわ)
 この人を助けなければ、と葉月は強く想った。
 もう一度、蛇に目を遣った。黒い煙状の頭部にある小さな目が、威圧的に睨み付けて来る。
(三段階以上だと、おばあちゃんでも個別の儀式じゃないと鎮められないけど………これは一段階だから、他の邪気と同じように灯籠に封じ込められるはず。でも………葉月にできるかな?)
 自信が無い訳では無い。きっと、いや、絶対に出来る筈だ。それなのに、ほんの少しだけ迷いが頭を過(よぎ)った。
 悪魔を消滅させる祖母の姿は何度も傍で見て来たし、作法も教えて貰っている。しかし、実際に自分でやった事が無い。習って来た事は机上の理論であって、実践はまた違う。やり方はわかっていても、実際に効果を生み出せる程の力が自分にはあるのだろうか。
 参列者に混じって祖母が遠くから見てくれているとわかってはいたが、葉月は其方(そちら)を見ないように努めた。助けを求めるのは簡単だ。だが、自分はもう竜田姫の位を継いでいる。何時(いつ)までも甘えてはいられない。これ位の悪魔を懲伏(ちょうふく)させられないようでは、神祇(じんぎ)次官を名乗れない。
 まず、するべき事は悪魔が生まれた原因、つまり、女性が抱いている悩み事を聞き出す事だ。悩みを解消し、この人の気持ちが変われば悪魔は弱まる。そこを一気に叩いて、引き剥(は)がすのだ。
 しかし、そこが難しい所だった。人の心というのは、簡単には変えられない。自分は変わろうと思えば幾(いく)らでも変われるが、他人は変えられない。自分で変わろうと思えるようになる方向に持って行かない限り、他人は変えられない。女性の心にどれだけ響かせられるか、気持ちに変化を齎(もたら)す事が出来るか、それは葉月の技量に掛かっている。

 出来るのだろうか…………祖母のように。

 心の片隅で、小さくそう呟くもう一人の自分の声がした。
 その時――。

「一段階悪魔位で、ビビるんじゃない!」

 怜(りょう)の声が耳に飛び込む。途端、葉月は頭からバケツの水をぶちまけられたような思いがした。
 彼女が悪魔と対峙している間も、神官達は詠唱を続けていた。その一方で、巫女や覡の中には突然現れた悪魔に怯んで声が出なくなる者もおり、見兼ねた怜が一喝(いっかつ)したのだった。彼の一声で、再び詠唱の声が大きくなる。
 一人一人の声が耳にどっと響き渡り、気弱な考えは一気に吹き飛んだ。皆が詠唱し、祈り、援護してくれている。そう強く感じ、身体の内側から熱いものが込み上げて来た。弱気になってはいけない。ほんの些細(ささい)な迷いでも、悪魔にとっては御馳走だ。付け込まれる隙を与えてしまっては、神力を発揮出来ない。
 葉月はゆっくり息を吸い込み、心を整えた。聖気が胸の奥から輝きを増すのを感じる。
(自分にできることは、しっかりやらなきゃ。葉月には神力がある。神力がある分、他の人にできないことを葉月がやらなきゃ。おばあちゃんみたいにできなくても、葉月は葉月のやり方でやる………!)
 彼女は身を屈め、地に膝を着いている女性と目の高さを合わせた。瞳を和らげ、優しい口調でそっと、耳打ちするように彼女に問い掛けた。
「何をそんなに悲しんでおられるのですか?」 女欲霊:http://www.superkanpo.net/pro/kp485.html
2012年05月09日   お天気:
私の居場所
テーマ:日記
“どこにもいない、ここにいる”。
 
私と海斗の関係はいつも問題だらけ。
 
満足な幸せを得られても、すぐにその幸せは崩壊してしまう。蟻力神:http://www.superkanpo.net/pro/kp6.html
 
海斗と恋人になれて本当の幸せを手に入れたと思っていた。
 
それはわずかな指の隙間から砂のように零れ落ちていく。
 
どうして、私達の幸福を世界は邪魔するの?
 
私達はそんなに多くを求めていないのに。
 
たったひとつのモノを望む事がそんなに悪い事?
 
私がどんなに叫んでも、もがいても、運命は変えられない。
 
大切な人との別れ……私は何て無力なんだろう。
 
海斗……私の運命を切り開いて。
 
貴方だけが私の最後の希望だから……。
 
 
 
私が白銀家から家出して、1ヶ月以上が過ぎた頃。
 
ようやく海斗との恋人関係に慣れ始めた矢先の出来事。
 
早朝、扉を開けた向こうにいたのは……。
 
「……お久しぶりです、紫苑お嬢様」
 
黒いスーツを身にまとう男、白銀家のボディーガードの板倉が玄関前に立っていた。
 
「い、板倉!?どうして貴方たちがここに?」
 
「お迎えに参りました。お嬢様、会長からの伝言です……遊びの時間は終わり、だと」
 
それは幸せな時間の終わり。
 
予想外の展開に私はそれ以上、言葉が出ない。
 
「……どうしてここが分かったの?」
 
「3週間前に紫苑お嬢様がこの街でクレジットカードをお使いになりましたね?そこからこの街を割り出し、さらにお嬢様の友人関係を調べさせてもらいました。数日前にここにいるのを確認し、自分が会長と美咲お嬢様にご報告しました」
 
「……そういうこと」
 
海斗の誕生日に私はそれまで使わなかったクレジットカードを使ってしまった。
 
あの時は彼のことばかり考えていたせいで、気にしてなかったんだ。
 
そんな僅かなミスから綻びに繋がるなんて。
 
「美咲お嬢様は貴方の事を心配しておられます。これ以上、迷惑をかけるのは……」
 
「知ってるわよ、それくらい。でも、私は嫌よ。ここから帰るつもりなんてない」
 
「紫苑お嬢様……」
 
「板倉だって分かってるでしょ。私があの家に帰れば結婚させられる。ここには大好きで大切な人がいるの。私はようやく手にした幸せを失いたくない」
 
彼は仕事のプロだ、同情してもらえるとは思っていない。
 
だけど、私だってここから離れる事なんて絶対に嫌だから。
 
残酷な現実を黙って受け入れたくないの。
 
「……光里様との婚約の件、理不尽に思われている心中は察します。ですが、貴方には白銀家に戻ってもらいますよ。あの家に貴方は必要な存在です」
 
「うるさいっ。私は帰らない、絶対に戻らない」
 
「抵抗はしないでください、紫苑お嬢様」
 
私の肩を掴む板倉、周りを他のボディーガードにもつかまれてしまう。
 
「離して、このっ……離してよっ!」
 
私が何とかしようともがいていると男の人が私の前に姿を見せた。
 
「紫苑さん、大人しくしてもらえないかな?」
 
「み、光里さん!?嘘、どうして貴方がここに……」
 
……私の婚約者でもある彼がわざわざこんな場所に来るなんて。
 
いつもは優しい表情を浮かべる彼は顔を強張らせた。
 
私の前に現れた彼は私にそっと耳打ちする。
 
「会長はかなりお怒りだ。場合によれば力づくもやむを得ないと言ってる……この意味がキミにも分かるだろう?……木村海斗、紫苑さんが身をよせた相手だよね」
 
「ちょ、ちょっと待って!何を言ってるの?まさか……海斗に何をするつもり?」
 
「彼はまだ室内にいるのかな?だとしたら……」三便宝:http://www.superkanpo.net/pro/kp47.html
 
その口調から察する事ができるのはひとつしかない。
 
これは脅し、私が素直に帰らなければ彼がどうなるのか。
 
身の危険だけじゃない、彼の未来を潰すことも白銀家なら容易にできる。
 
ここまで卑怯な事をするとは思っていなかった。
 
「待って、彼には何もしないで!彼は関係ないでしょう。どうしてそういう事を平気で出来るの?貴方たちは私に何をさせたいの……」
 
「何とでも言ってくれていい。それでキミが戻ってくれるのなら。紫苑さん、僕だって手荒な真似はしたくない。分かってくれるね?」
 
私は海斗を守りたい、だからそれ以上抵抗する事はできなかった。
 
私のせいで彼にもしもの事があったら……そう考えるだけでも思考が凍りつく。
 
「最低だよ……こんな卑怯な脅し方。お父様の……ような……」
 
私はハッとさせられてしまう。
 
「もしかして……そう言うことなの?」
 
頭の中でカチッと音を立てて、何かが当てはまる。
 
「光里さんが白銀家の分家である倉敷家の人間でも、こんな真似ができるだけの権限もない。お祖父様だって、こういう手荒なことをしない人よ。こんな圧力のかけ方、まるでお父様のようね」
 
ずっと心の中で抱いていた違和感があった。
 
私の中の疑問が確信へと変わる。
 
気づきたくなかった事がある。
 
気づいてしまった事がある。
 
それは……とても冷たくて、残酷な答え。
 
「……ねぇ、光里さん、さっきの脅しをかけたのは姉さんでしょう」
 
「さぁ……僕がそれに答える意味はない」
 
私の知る彼は優しい人だ、誰かを傷つけるような事はしない。
 
けれども、ひとつだけ例外は存在した。
 
愛する美咲姉さんの命令、それは彼を自分の意思とは無関係な行動をさせる。
 
「光里さんは美咲姉さんに頼まれたんだ。そうやって私を脅かすように」
 
姉さんの噂を聞いた事がある。
 
白銀家の権力を握るようになった彼女はかつての父のようである、と。
 
強引な経営手腕も、そういう方法も父に幼い頃から教え込まれているから。
 
「僕から何も言うつもりはない」
 
「いいわ、会いに行きましょう……」
 
私達の運命を切り裂いたのが実姉だなんて思いたくない。
 
私は海斗に何もつけずにその扉を閉めた。
 
「ごめんなさい、海斗……」
 
また貴方の前からいなくなる私、ひどい事をしてると思う。
 
けれど、今度の私は違うから。
 
貴方との関係を、幸せを本当に手に入れるために運命と向き合うの。
 
逃げてばかりじゃ何も始まらないから……私はそのいばらの道への一歩を踏み出す。
 
大事な明日を手にするために。
 
 
 
私たちが向かったのはお祖父様の屋敷ではなく、白銀家の本家である私の実家だった。
 
3年ぶりの実家はいつもと同じ雰囲気に包まれている。
 
「……久しぶりね、紫苑ちゃん。おかえりなさい」
 
姉さんの執務室を訪れた私に優しく微笑む。
 
その笑顔が好きだった、ずっと姉として憧れていたから……。
 
でも、それは違うんだって気づいてしまった。
 
「ただいま、美咲姉さん……」
 
「いきなりいなくなったから心配したのよ。ダメじゃない、勝手な事をしちゃ……」
 
「……誰だって、自分の運命を決め付けられたら抗いたいと思うでしょう」
 
私は逃げずに彼女と真正面から向き合う。
 
「4年前、私は光里さんと結婚する事になった。3年前、私は留学することになったの。全部、お祖父様の命令……仕方ないって思っていた。けれどね、私は前から疑問に思っていたんだ。どうして、お祖父様、本人から聞いてないのか」
 
姉さんの表情が変わる、こちらを見つめる彼女の瞳が怖い。
 
それでも進まないといけない。
 
私と海斗との未来を守るために、私の居場所を得るために。
 
「……お祖父様は今回の件に一切関与してないんじゃない?そう、全ては美咲姉さんの独断だった。婚約も留学も……」
 
「どうしてそう思うの?」
 
「私が白銀家に戻らなければ海斗に対して圧力をかけるって言ったでしょう。私の知るお祖父様はそんな汚い事はしない。そう言うことをしていたのは亡くなったお父様。そして、今、その考えを引き継いでるのは姉さんだもの」
 
執務室が静寂に包まれる。
 
黙り込んだ私達……先に静寂を破り、くすっと微笑をしたのは姉さんだった。
 
「……だとしたらどうだというのかしら?そうよ、紫苑ちゃんの婚約を決めたのも、留学させたのも、海斗さんに圧力をかけようとしたのも全部、私がしたことよ」
 
悪びれる事もなく、堂々と言い放つ美咲姉さん。五便宝:http://www.superkanpo.net/pro/kp2.html
 
「お祖父様は数年前に病に伏せて長い間入院しているの。もう先は長くない、そう宣告されているわ。つまり……白銀家の実権を握るのはこの私、全てを決めなければいけない。だから、紫苑ちゃんにも協力して欲しいの」
 
「何を言ってるの、姉さん……私に協力して欲しいって?」
 
「そう。光里と結婚して、薄れていく白銀家の血をひとつにしたい。留学してもらったのは語学に堪能な優秀な人材として成長して欲しかったから。せっかく、そこまでは順調だったのに、まさか勝手に恋愛なんかして、家出されるとは思わなかったわ」
 
なんて現実は残酷なんだろう。
 
今まで……私の味方だと思っていた姉さんが私と海斗の関係を引き裂いた相手だった。
 
「私と海斗は恋人よ。誰にも引き離す事なんてできない……」
 
「紫苑ちゃん……バカな事をいつまで言うつもり?貴方には拒否する事は許されない。白銀家に生まれた以上、私の命令に逆らう事はできないの。海斗さんとは別れなさい。そんなどこにでもいる男は貴方にふさわしくない。……辛いかもしれないけれどすぐに忘れてしまうわ」
 
「ひどいわ、姉さんっ!美咲姉さんは人の感情を何だと思ってるの!?」
 
怒りだ、この胸に溢れて仕方がない感情は……姉に怒りを抱くのは初めてだった。
 
「……感情的にならないでよく考えなさい。私が貴方の未来を作ってあげる。理想的で“幸せ”になれる未来。どうして、それを拒むの?」
 
「私は……私はそんな作られた幸せなんていらない!私が欲しいのは私を満たしてくれる本当の幸せよ。姉さんは何も分かっていない」
 
「分かっていないのは紫苑ちゃんの方でしょう。よく考えてみなさい。時間はまだあるもの。どちらが貴方にとっていいのか」
 
姉さんが合図をすると板倉達が室内に踏み込んでくる。
 
「板倉、この子の監視を頼むわ。紫苑ちゃん、少し頭を冷やしなさい。しばらくは外出するのを禁止します……話は以上よ」
 
「……美咲姉さん。これだけは約束してよ。海斗には何もしないって」
 
「約束……?ごめんね、紫苑ちゃん。それ、無理。もう既に光里が彼に手をくだしているの……。大丈夫よ、紫苑ちゃんとの事を諦めてもらうだけだから安心しなさい」
 
「くっ……美咲姉さん、貴方って人はどこまで卑劣なの!」
 
私の叫びを真顔で見つめる彼女。
 
「私は白銀家のためにならなんだってするわ。それが当主としての責任だもの」
 
「……美咲姉さんなんて嫌い、大嫌いっ!」
 
表情さえ変えない彼女、そこにいるのは私の知る彼女ではない。
 
姉さんの事を何も知らずにいた自分、悔しい気持ちでいっぱいになる。
 
私は唇を噛み締めることだけしかできない。
 
美咲姉さんには優しい私の姉でいて欲しかった、そんな姉を信じていたかった。
 
私は板倉達に自室へと連れて行かれてしまう。
 
自室に独りになると私はグッとこらえていた感情が溢れていく。
 
ポツリと、瞳から涙が自然に流れていく。
 
「……うぅっ……ぁあっ……」
 
たった1人の家族、大好きな姉に裏切られてしまった。
 
「ひくっ……ぇっ……かいとぉ……」
 
海斗は大丈夫だろうか、ひどい事をされていないかな。
 
「……うぁっ……くぅっ……海斗に会いたいよぅ」
 
どうして、私の運命はこんなにも残酷なの?
 
嗚咽をあげて泣いても運命は変わらない。
 
「海斗は私を守ってくれるって……うっ……言ってくれた」
 
だから、私は海斗のその言葉を信じる。
 
大切な人だから……彼は私を裏切らないって。
 
「もう2度と寂しい思いをさせないって思ってたのに。それなのに私は……ぅぁっ……!!」
 
静かに瞳を瞑り大好きな海斗の顔を思い出す。
 
普段は何でも冷めてるようにみえるけれど、触れてみたらすごく温かくて優しいの。
 
そんな海斗が好きで、私の世界の大半を彼が占めていた。VigRx:http://www.superkanpo.net/pro/kp46.html
 
私はこれからどうなるんだろう、深い暗闇に沈むように私は泣きつかれて眠りについた。
2012年05月07日
再生
テーマ:日記
キヌエが身を翻したのに続き、ムラサキも無遠慮に上がりこむ。その後ろにハヤトも続いた。犬猫もぞろぞろとついてくる。
 キヌエの口元がへの字になるのを、ハヤトは見逃さない。やはり今日もそうだった。彼女は生体に目の焦点を合わせない。そしてムラサキも見ない。三便宝カプセル:http://www.superkanpo.net/pro/kp1.html
 シラユリは患者の対応のためにクリニックに残った。連れてきたら彼女の眉間のしわがもう一つ増えていただろうな、とハヤトは思った。
 居間兼作業部屋の扉をくぐったムラサキが、大声を上げた。
「なんだこれは?」
 興味深そうに、壊れた生体を観察し、無造作に触れる。
「あの生体か? どうしたんだ。ハヤト、可愛さあまってとうとう殺っちまったか」
「……そんなこと、するわけないだろ」
 ムラサキの冗談ともつかない言葉に、思わず強い口調で反論してしまう。はっとして「やだなぁははは」と態度を和らげるも、そこにはぴりっとした空気が残った。
 あの生体を拾ったときは、まさかこんな最期になるなんて思ってもいなかった。
 キヌエはフウカのことをどう思っていたのだろう。

「誰も壊したくはなかったのだけどね」
 キヌエが重々しく口を開いた。
「ムラサキさん。フウカはどうしても破壊せざるを得なかったの」
 キヌエのかいつまんで、というよりかなり端折った説明をハヤトはなんとなく聞いていた。
 フウカが暴走した影響で凄まじい電波障害を周りに引き起こしたこと。やむを得ず、停止させたこと。
「電波障害? 生体が?」
「……そうなの。私もよくわからないんだけど、この生体にはいくつか通常ではあり得ない性能が備わっていたみたい」
 ムラサキは生体を観察していた。衝撃にやられて、頭部は見るに耐えないが、四肢は驚くほど綺麗だった。
「生体のことはあまりわからんが、損傷は頭部、および頸部……か。何をどうしたらこんな状態になるんだ」
「それは……」
 言いよどんだ彼女に、ハヤトは口を挟んだ。
「それは、キヌエちゃんの日々の鍛錬の成果さ」
「はぁ?」
 不謹慎だが、思わず笑みがこぼれた。ハヤトはその時の様子を二倍にも三倍にも大げさに語ってみせた。キヌエの眉間にしわが寄っていく。しかし、悪ふざけが止まらない。
「回り込むと、こう、ホールドして、そして止めはパワーボム! しかもただのパワーボムじゃない、垂直落下式パワーボムさ。どう、『生体殺しのキヌエ』。なかなかかっこいい二つ名じゃね?」
「……次は旦那殺しの称号も加えることになるのかしらね」
 耳元でぺきぺきと指を鳴らす音が聞こえて、ハヤトはぺろりと舌を出した。
 ひょっとしたら、そう遠くないうちにフウカの隣に墓が立つかもしれない。
「しかし、そのおかげでうちは大損害だ。いや、うちだけじゃない、あたり一帯の機械が全て停止してしまったんだぞ。ハヤト、元々はお前が拾った生体だろう。お前が責任をとってなんとかしたまえ」
「ええええ?」
 ハヤトは頭を抱えた。予想通りといえば予想通りだが、責任とは一体何を意味しているのだろうかと思っていると、ムラサキはすっと手を差し伸べて、そして指で丸い輪っかを作った。つまり、お金、だ。
「いやいやいや。無理だろ。どう考えても無理だろ」
 ムラサキのクリニックにある医療用機器など、ハヤトの稼ぎでは弁償できるはずがない。
「ムラサキさん」
 すっと、ハヤトとの間に彼女が割って入った。
「最初に言ったよね? 他言無用、って。それは守ってもらえるのでしょうね」
「あ? ああ。もちろんだ」
「じゃあ、改めて聞くけど。誰が何によってどんな被害を受けたというのかしら? そしてそれを主張するに足る証拠は?」
 ここまで問い詰められては、ムラサキも沈黙せざるを得ない。
 最初に他言無用と釘を刺されていては、この話をネタに強請ろうとも無駄なことなのである。そして、キヌエ相手にムラサキがそれを出来るはずがなかった。
 しかし、ハヤト一人では言いくるめられていたに違いない。キヌエがついていて本当に助かったと、ハヤトは思った。

「しかし、生体が暴走した、だって? 嘘だろう。キヌエさんがついていながらそんなことがあるのかね」
 ぴくり、とキヌエが反応するがそのまま彼女は黙り込む。
 ムラサキの言うことはもっともであった。
 普通の生体であれば、例え暴走したとしてもそんな広範囲に電波障害を引き起こすなどという凶悪な反応はあり得ない。
 しかし、あの山で発見されたということを持ち出すと、その疑念はあっさりと沈んだ。あの山に捨てられているものなら、何が起きても不思議ではないからである。
 そこから先は、フウカの生い立ちについて大いに盛り上がった。
「実はその生体は不良品ではなく、世界征服を企む謎の組織によって開発されたものだったのだ! ……どうだハヤト、夢があるだろう」
「ははは、そんな馬鹿な」
 ちらりとそんな可能性に思い当たらなくもないが、ハヤトは笑って誤魔化した。フウカの力、性能、あれは生半可なものではなかった。下手をすると本当に世界を征服するだけの力が備わっていたかもしれない。
 何よりキヌエがかなり端折った説明をしたおかげで、「ひょっとすると、それは本当かもしれない」などと可能性を示唆することさえ出来なかった。そのぶんムラサキは気楽なものだ。何しろあの出来事を見ていないのだから。
「でも、本当のところはどうなんだろうね」
「知らないわ」
 彼女に話を振ってみると、気のない返事が返ってくる。
 ふと、ハヤトの中の直感が囁いた。
 彼女は嘘をついている。
 もちろん根拠はない。彼女に伝えたところで、とぼけられるか逆上されるか、そのどちらかでしかないであろう。
「ふーん」巨人倍増:http://www.superkanpo.net/pro/kp3.html
「何笑ってんの」
「いいや?」
 ハヤトはキヌエの頭を撫でた。彼女からは顔をつねられる。
 何となく隠していることはわかる。彼女はフウカの重大な秘密を知っているのだ。
 彼女はいつも何かを背負っていた。この家に来たときも、彼女は頑なに自らをさらけ出すことを拒んだ。そして、ハヤトはそれを聞き出そうとはしなかった。
 大事なことを話してもらえないとはお前は信用にあたいしないのだ、などとムラサキからは言われたが、それは違うと思っている。
 キヌエはそういう性分なのだ。そして、彼女にとっては言えない「何か」があるのだろう。それをむやみに暴き出すこともない。
 有体にいうと、信用している。
 そんな言葉は、恐らくムラサキには信じてもらえないだろう。キヌエに言ったらどんな顔をするだろうか。ハヤトの勝手な思いであることは承知していた。
「まあ、その気になったら教えてよ」
 彼女にそっとささやく。それでも、彼女がその気になったなら受け止めてやりたいと思ってはいるのだ。
 答えは期待していなかった。だが。
「……そのうちね」
 その言葉に、ハヤトはどきっとした。そしてくるりと背を向けた彼女をじっと見つめた。彼女は今、どんな顔をしているだろうか。

「それより、どうだハヤトよ。こいつのパーツをお前の義手に使いまわしできるんじゃないのか?」
「えっ」
 そんなことは考えもしなかった。なんとかして彼女を生き返らせてやりたいと、ただそれだけを願っていたのだ。
 それに、人間用の義手と生体の手は同じように動くのだろうか?
「いや、それより……フウカちゃんが直らないかと俺は思ってるんだけど」
 ハヤトは段々小声になりながらも自分の望みを打ち明けた。現実的な考えではないことは承知していた。それでも、なんとかしてやりたい。
 そう言うと、ムラサキが難色を示した。
「しかしな。キヌエさんの話を聞く限りじゃ、そいつを復活させたとしてまた同じような目に遭わない可能性はどれだけあるんだ? 俺の見立てによると、ないな。性犯罪者が出所後に同様の行動を繰り返すようにだ」
 ハヤトはむっとする。
「フウカちゃんはそんなんじゃない」
「だから、ものの例えだろうが」
 ムラサキでは埒が明かない。むくれながらキヌエに助け舟を求めた。
 そういえば彼女からは、まだ返事を聞いていない。ハヤトはわずかな期待に望みをかけようとした。だが、彼女もまた首を横に振ったのだった。
「ムラサキさんの言うとおりかもしれない」
「ほほう。気が合いますね」
 ムラサキがぐっと親指を立てて熱い視線を送るも、彼女は軽くスルーする。
「それに、その部分を削除して復活させたとして、それは本当にあのフウカのように動くのかしら」
「……うう」
 ハヤトは力なくうなずいた。
 わかっていた。
 本当は、最初から頭の片隅で理解していたのだ。確かにフウカを元に戻すより、分解してパーツを再利用したほうが間違いなく現実的であった。ただ、現実を受け入れられなかった。こんな形で幕を下ろさざるを得ない彼女に未練があっただけなのだ。
 ハヤトはくるりと背を向け、ほんの少しだけ泣いた。
「……大丈夫?」
「ん?」
 裾で顔を拭い、すぐになんでもない風を装った。
「……うん。まあフウカちゃんが俺の一部として生きるんなら、それもいいかな、なんてね」
 キヌエが心配そうにこちらを見ている。ハヤトはそれを見ないように、ガラクタの中を漁る。程なくして目的のものは見つかった。
 それは持ち手の先に細い頭がついただけの、まさに原始的ともいえる工具。これなら電力がダウンしていようと関係ない。それをムラサキに渡すと、彼はにやりと笑った。
「じゃあ、始めようか」
「おうよ」
 ハヤトはムラサキと二人がかりで、器用に生体を分解していった。それをミチコが尻尾を振って見ている。
 キヌエは手際のよさに感心していたが、もちろん生体を分解するのはこれが初めてではない。でも、そんなことは決して言えなかった。腕の表皮とシリコンをはがしていくと、中に骨組みが表れる。神経系であるケーブルを損なわないように、丁寧に落としていく。そして胴体から肩を切り離す。
 胴から外されたその腕を、ハヤトの肩にあわせてみる。
「ふむ。まあくっつけることも出来なくはない、と思うがな。だがしかし、だ」
「ちょっと、長さが違うわ。……それに、女の腕でしょ。思いっきり変! 似合わない」
 ムラサキの懸念する声とキヌエの大反対により、その案はあっけなくお蔵入りとなった。
 どうせ骨組みだけにしてしまうのだから、フウカのすらりとした腕でも大丈夫だろうと思っていたが、あてが外れた。やはり長さがハヤトの体長に合わない。これは見た目もさることながら、実際の生活では不便なのである。これならフウカの腕を流用するより、元々の義肢を修理した方が早い。
「俺の腕が戻ってくるのは、当分先かな」
 未だに動かない左腕を見ながら、ハヤトはそうつぶやいた。



 世間のニュースを騒がせていた謎の電波障害も、日が経つにつれてあっという間に人々の記憶から消えていった。何しろ原因不明、そしてあの山の近辺ということもあり、常識的な人たちはそれに関わることを嫌ったのである。また、ニュースであまり報道されなくなったことについて、どこからか緘口令が敷かれたのではないかと囁かれたが、それすらもあっという間に消えた。RU486:http://www.superkanpo.net/pro/kp235.html
 もっとも影響を受けたであろう、山に住む者たちは何一つ事実を知らない。ただ、ほんの少しの人たちを除いて。
 やがて電力も復旧し、彼らはそのことを忘れるように、普段の生活へと戻っていったのである。


 夜は、宇宙だけの出来事ではない。
 巨大な山には明かりなど存在しない。この夜に乗じて、人々はスクラップを投棄する。名もない一個人や、音もなく夜間飛行する巨大企業お抱えの業者まで、闇はその全てを覆い尽くしていた。この山は無法地帯と呼ばれているが、そこには確かに法が存在しているのである。
「色々考えたんだけど」
 影は、一呼吸置いて続ける。
「やっぱり廃棄する場所はここしか思いつかないのよね」
 目の前には、スクラップの山がそびえていた。それは不気味なほど静かな、大きな影であった。
「ううっ。フウカちゃんとお別れするのは寂しいなあ」
「……あんたもここに埋めてあげようか?」
「そ、それは困るなあ……」
 そして二人は黙々と山に登っていった。大きな荷物を背負いながら、足場の悪い山に登るのは骨が折れた。なにより、その暗闇がその行く手を阻む。
 山は、彼らにとって廃棄する場所であり、そして再生する場所でもあった。


 結局、ハヤトの義肢は今のものを修理して使うことにした。フウカの手に心が動かなくもなかったが、やはり愛着のあるこの手が軽快に動くところを見ると、心地よかった。
 そして、ハヤトは自らの手で一つ一つフウカのパーツを解体していった。
 キヌエとは話し合いの末、データを消去できるものは出来るだけ消した上にチップをばらばらに分解し、そして使えるものは再利用することで決着がついた。やっぱり彼女は秘密を墓にまで持っていくつもりのようだ。けれど、それこそが彼女なんじゃないかと思う。
 フウカは死んでしまった。けれど、自分の知らないどこかで、フウカが生きている。極限まで細分化されたパーツがまた何かに再利用されるなら、それでいいじゃないか。そう思うことにしたのだ。
 彼女を分解し、そして使えそうなものは取り出した。こんなにもたくさんのパーツで出来ているのかと、改めて人間の英知を思い知らされずにはいられない。
 彼女の体から取り出した四肢は、また誰かの体で生きていくことになるだろう。
 そして残りのパーツを山に廃棄する。それをまた誰かが拾い、考えもつかないような物事に用途を見出すだろう。
 ゆっくり山を歩きながら、彼らはフウカのパーツを撒く。
 山を歩きなれているハヤトでさえ、真夜中の山は予想以上の恐怖であった。古びた暗視スコープの貧弱な視界を頼りに歩を進めるが、不安定な足場によろめき、けつまずく。ましてや山に不慣れなキヌエは言わずもがなである。二人は手をつなぎながら、一歩ずつ踏みしめて進む。そしてフウカだった部品を撒いた。
「だから、一人で行くって言ったんだけどさ」
「……ごめん、でも、どうしても――わあっ」
 彼女はどうしても行くと言い張った。ハヤトは危険だからと一応説得したが、それでも意見を曲げなかった。彼女なりにフウカと決別したかったのだろう、と思っている。
 足を滑らせかけたキヌエを抱きとめる。
「大丈夫?」
「うん……」
 珍しくも、主導権はハヤトにあった。借りてきた猫のように大人しくなっているキヌエを見て、たまには山に連れてこようかと愚にもつかないことを考える。恐らく一生実現しない気がした。
 最後に、フウカの頭脳ともいえる数十に分かれたチップを、そっと握り締め。ゆっくりと山を下りながら、一つ一つ、立ち止まっては投げた。
 また、君に出会えるといい。
 「散骨」を終えて、すっかり空っぽになった袋を最後に投げ捨てた。
 去り際に、山に向かって手を振った。それをキヌエは黙って見ていた。長い時を経て、再びフウカと出逢うことが出来たなら。今度はキヌエも文句を言わないだろう。
「行こうか」
 彼はキヌエの手を握り締め、そして歩き出した。
 山がぴしりと、電気を帯びた気がした。中絶薬:http://www.superkanpo.net/pro/kp234.html
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